人事の視点
社員の主体性が育たない理由|フォロワーシップから考える組織づくり
『もっと協力的な社員が増えてほしい…』
経営者とお話ししていると、この言葉を耳にすることがあります。
会社の方針を理解してほしい。
指示をきちんと実行してほしい。
周囲と協力しながら仕事を進めてほしい。
どれも経営者として自然な願いです。
ただ、この言葉を聞くたびに、私は一つ気になることがあります。
その社員は、誰に協力するのでしょうか。
社長でしょうか。上司でしょうか。それとも、組織の目的でしょうか。一見すると同じように思えますが、組織づくりを考える上でこれらの違いは決して小さくありません。
本記事では、「フォロワーシップ」という考え方を通して、その違いを整理します。ただし、お伝えしたいのは人事用語の解説ではありません。「協力的な社員」が何を意味するのか。その前提を問い直し、経営者が組織を見る視点を変えることです。
「協力的な社員をどうやって増やすか」という発想から、「社員が主体的に関われる組織をどうつくるか」という視点へ転換するヒントになれば幸いです。
次の二人の社員を想像してみてください。
一人は、上司の指示に異論を唱えず、忠実に言われた通りに仕事を進める社員です。
もう一人は、「この進め方では現場が混乱すると思います」と意見を伝える社員です。
さて、どちらが協力的でしょうか。
前者は上司に協力しているように見えます。後者は反対しているように見えます。しかし、その意見によって大きなトラブルを未然に防げたとしたら、本当に組織へ協力していたのはどちらでしょうか。
ここで重要になるのが、「協力する相手」です。協力の対象が上司個人なのか、それとも組織の目的なのかによって、「協力的な社員」の意味は大きく変わります。
フォロワーシップとは、リーダーに従うことではありません。組織の目的を実現するために、自ら考え、必要な行動を取る姿勢です。そこには、指示を実行することだけでなく、改善を提案すること、必要な異論を伝えることも含まれます。
つまり、フォロワーシップとは「従順さ」を表す言葉ではなく、「組織目的への主体的な関与」を表す考え方なのです。
ここで、もう一つ整理しておきたい言葉があります。「メンバーシップ」です。
メンバーシップとは、組織の一員として役割を果たすことを意味します。一方、フォロワーシップは、組織の目的を実現するために、自分はどのように貢献できるかという視点で主体的に関わる姿勢を意味します。
例えば、自分の担当業務を正確にこなしていても、組織全体の課題には関心を持たず、「自分の仕事ではない」と考える人もいます。反対に、自分の役割を果たしながら、より良い成果につながる提案や周囲への支援を自ら行う人もいます。この違いが、フォロワーシップの考え方です。
つまり、メンバーシップとフォロワーシップは、どちらか一方を選ぶ考え方ではありません。組織の一員として役割を果たすこと(メンバーシップ)を土台に、組織の目的達成に向けて主体的・建設的に関わる姿勢がフォロワーシップです。
どちらが良い・悪いという話ではありません。ただ、一人ひとりの影響が大きい中小企業では、決められた役割を果たすだけでは対応しきれない場面も少なくありません。だからこそ今、組織に求められているのは、協力的に見える社員を増やすことではなく、組織の目的に向けて主体的に関われる社員が力を発揮できる環境をつくることなのです。
『うちには協力的ではない社員がいる。』
経営者や管理職から、そういうお話を伺うことがあります。
・会議で発言しない。
・改善提案をしない。
・新しい取り組みに消極的。
・指示されたことしか行わない。
確かに、その行動だけを見ると、「協力的ではない」と感じるかもしれません。しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいことがあります。
その社員は、本当に最初から主体的に行動しない人だったのでしょうか。入社した頃から何も提案しなかったのでしょうか。以前は意見を言っていたけれど、今は言わなくなったということはないでしょうか。
もし後者だとすれば、変わったのは社員だけではありません。社員と組織との関係の中で、何かが変わった可能性があります。
例えば、何度か改善案を出したものの、「前例がない」「今はそのタイミングではない」「現場のことは分からない」といった言葉で終わってしまった経験が続けば、「言っても変わらない」と感じるようになるのは不自然なことではありません。また、自分の役割が曖昧で、「どこまで踏み込んでよいのか分からない」状態では、主体的に動くことをためらう人もいます。
こうした行動を「主体性がない」「協力的ではない」と結論づけてしまうと、本当の原因を見落としてしまうかもしれません。
フォロワーシップの視点で見ると、大切なのは社員を「協力的か、非協力的か」という基準で見ることではありません。なぜ主体的な提案や行動が生まれにくくなっているのか、その背景を組織との関係も含めて考えることです。
主体的な提案や行動について考えるとき、「本人の意識を変えよう」という発想になりがちです。もちろん、主体的に行動することは社員一人ひとりに求められます。しかし、それだけでは説明できない現実があります。
例えば、同じ社員でも、部署が変わると積極的に発言するようになることがあります。上司が変わると、自ら改善提案を始める人もいます。逆に、以前は主体的だった人が、新しい部署ではほとんど発言しなくなることもあります。
もし主体性が本人だけで決まるのであれば、このような変化は起こりにくいはずです。
この点について、同志社大学の松山一紀氏らが行った実証研究(「フォロワーシップ行動と心理的安全性」、2022年)は、一つの重要な示唆を与えてくれます[1]。
この研究では、一般企業に勤める正規雇用の従業員500名を対象に、フォロワーシップ行動と職場の心理的安全性の組み合わせが、労働成果にどのような影響を与えるかを分析しています。結果として、フォロワーシップの種類によって心理的安全性との相互作用が異なることが示されました。
注目すべきは、「上司の指示に忠実に従う行動(受動的忠実型)」であっても、心理的安全性が高い環境と組み合わさることで、労働成果に正の影響をもたらすという点です。
研究者らは、この結果について、心理的安全性は「成果につながる行動を後押しする職場環境」として機能している可能性があると考察しています。つまり、安心して意見や提案を行える環境が、行動そのものにも影響を与える可能性があるということです。
この研究が示しているのは、主体的な提案や行動は本人の資質だけで決まるものではなく、職場環境との相互作用によって引き出される側面があるということです。
そうした環境があってはじめて、「このやり方は改善できると思います」「別の方法もあるのではないでしょうか」という言葉が、自然に出てきます。
フォロワーシップは、社員の内面だけに存在する能力ではありません。組織との関係の中で引き出され、発揮されるものなのです。
ここまで整理すると、経営者が向き合うべき問いも変わってきます。
なぜ社員は協力してくれないのかではなく、「この組織は、協力したくなる組織だろうか」という問いです。
例えば、こんな職場はないでしょうか。
・改善提案をしても、その後どうなったのか分からない
・会議では意見を求められるものの、結論は最初から決まっている
・問題を指摘した人ほど、面倒な役割を任される
・新しい仕事だけが増え、裁量は変わらない
こうした環境では、「会社のために考えよう」という気持ちがあっても、少しずつ行動は抑えられていきます。これは「協力したくない」のではありません。「協力しようとしても報われない」と学習してしまった状態なのかもしれません。
もちろん、すべてを組織の責任にすることはできません。主体的に行動することは、社員にも求められます。しかし、同じような行動が複数の社員に見られるのであれば、それは個人の問題ではなく、組織の構造を見直すサインかもしれません。
「非協力的な社員」という言葉を使った瞬間、私たちの視線は社員個人へ向かいます。しかし、本当に問い直すべきなのは、その社員が主体的に関われる組織になっているか、という点なのです。
主体的に関われる組織をつくるには、何から取り組めばよいのでしょうか。
フォロワーシップを身につけてほしい。そう考えたとき、多くの企業では、まず研修や教育を思い浮かべます。もちろん、フォロワーシップという考え方を知ることには意味があります。
しかし、知識を身につけることと、実際に行動が変わることは別です。
例えば、研修で「主体的に意見を出しましょう」と学んだ社員が、翌日の会議で発言したとします。その意見に対して「余計なことを言わなくていい」「前例どおりで進めよう」という反応が返ってきたら、その社員は次も発言しようと思うでしょうか。
反対に、特別な研修を受けていなくても、「その視点は大事だね」「なぜそう考えたのか聞かせてほしい」そんな対話が日常的に行われている職場では、社員は自然と考え、提案し、組織へ関わるようになります。
フォロワーシップは、教えることで身につくというより、発揮できる環境の中で育つものです。だからこそ経営者が考えるべきなのは、「どう教育するか」だけではありません。
では、どのようなフォロワーシップが発揮される環境を目指せばよいのでしょうか。
そのヒントになるのが、ロバート・ケリーのフォロワーシップ理論です。
WEB労政時報(2022年)でこの理論を紹介した九州大学・青島未佳氏は、ケリー自身の言葉として、組織の成功に対するリーダーの平均的な貢献は約20%、残りの約80%はフォロワーが握っているという考え方を紹介しています。数値の妥当性については議論の余地があるものの、フォロワーの役割の大きさを示す一つの視点として紹介されています[2]。
ケリーが重視したのは、「積極的な関与」と「批判的思考」の両方が備わっている状態です。
ここでいう積極的な関与とは、自分の役割だけでなく、組織の目的を意識して主体的に行動することです。一方、批判的思考とは、上司に反発することではありません。組織の目的を実現するために、「もっと良い方法はないか」「このままで良いのか」と考え、建設的な意見を伝える姿勢を指します。
この視点で考えると、「協力的な社員がほしい」という言葉の意味も変わってきます。
もし「協力的」が「従順で指示によく従う」という意味になっているとすれば、それは積極的な関与は求めても、批判的思考は期待していない状態かもしれません。しかし、本来のフォロワーシップは、その両方があって初めて発揮されるものです。
では、そのようなフォロワーシップが発揮されているかどうかを、経営者は何を見て判断すればよいのでしょうか。
私たちはつい「協力しているかどうか」を見てしまいます。指示に従っているか。文句を言わないか。周囲とうまくやっているか。もちろん、それらも組織運営には大切です。しかし、それだけでは組織の成長を支えることはできません。
本当に見たいのは、「組織の目的に向けた主体的な関わりが、組織の中で生まれているだろうか」という視点です。
・問題に気づいたとき、声を上げられているか。
・改善できることを見つけたとき、提案できているか。
・担当業務だけでなく、組織全体の成果を考えながら行動しているか。
こうした行動こそが、フォロワーシップの表れです。
リーダーとフォロワーは対立する存在ではありません。リーダーは方向性を示し、意思決定を行う。フォロワーは、その目的を実現するために主体的に考え、必要な提案や異論を伝える。役割は違っても、目指すゴールは同じです。
「協力している社員を増やすこと」を目標にするのではなく、社員が組織の目的に主体的・建設的に関われる状態をつくること。それが、フォロワーシップという考え方の核心です。
「もっと協力的な社員が増えてほしい。」
その願い自体を否定する必要はありません。ただ、その言葉を使った瞬間、私たちの視線は社員個人へ向かいがちです。「主体性が足りない」「協力する意識が低い」と考える前に、一度立ち止まってみてください。
フォロワーシップとは、社員を従わせるための考え方ではありません。組織の目的を共有し、その実現に向けて、一人ひとりが主体的かつ建設的に関わるための考え方です。
だからこそ、経営者が最初に目を向けるべきなのは、社員ではなく環境なのです。
「協力的な社員をどうやって増やすか」という発想から、
「社員が主体的に関われる組織をどうつくるか」という視点へ。
この視点の転換が、持続的に成長する組織づくりの第一歩になるのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
参考資料
[1]松山一紀・森勇貴「フォロワーシップ行動と心理的安全性」同志社大学、2022年
https://doshisha.repo.nii.ac.jp/record/28944/files/031001410003.pdf
【PDFダウンロードURL】
[2]WEB労政時報「第4回 心理的安全性を高めるフォロワーシップ」青島未佳、2022年7月
https://www.rosei.jp/readers/article/83259
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経営者とお話ししていると、この言葉を耳にすることがあります。
会社の方針を理解してほしい。
指示をきちんと実行してほしい。
周囲と協力しながら仕事を進めてほしい。
どれも経営者として自然な願いです。
ただ、この言葉を聞くたびに、私は一つ気になることがあります。
その社員は、誰に協力するのでしょうか。
社長でしょうか。上司でしょうか。それとも、組織の目的でしょうか。一見すると同じように思えますが、組織づくりを考える上でこれらの違いは決して小さくありません。
本記事では、「フォロワーシップ」という考え方を通して、その違いを整理します。ただし、お伝えしたいのは人事用語の解説ではありません。「協力的な社員」が何を意味するのか。その前提を問い直し、経営者が組織を見る視点を変えることです。
「協力的な社員をどうやって増やすか」という発想から、「社員が主体的に関われる組織をどうつくるか」という視点へ転換するヒントになれば幸いです。
フォロワーシップとは|主体的な組織づくりの考え方
◆フォロワーシップは「協力すること」ではない
次の二人の社員を想像してみてください。
一人は、上司の指示に異論を唱えず、忠実に言われた通りに仕事を進める社員です。
もう一人は、「この進め方では現場が混乱すると思います」と意見を伝える社員です。
さて、どちらが協力的でしょうか。
前者は上司に協力しているように見えます。後者は反対しているように見えます。しかし、その意見によって大きなトラブルを未然に防げたとしたら、本当に組織へ協力していたのはどちらでしょうか。
ここで重要になるのが、「協力する相手」です。協力の対象が上司個人なのか、それとも組織の目的なのかによって、「協力的な社員」の意味は大きく変わります。
フォロワーシップとは、リーダーに従うことではありません。組織の目的を実現するために、自ら考え、必要な行動を取る姿勢です。そこには、指示を実行することだけでなく、改善を提案すること、必要な異論を伝えることも含まれます。
つまり、フォロワーシップとは「従順さ」を表す言葉ではなく、「組織目的への主体的な関与」を表す考え方なのです。
◆メンバーシップとの違いとは
ここで、もう一つ整理しておきたい言葉があります。「メンバーシップ」です。
メンバーシップとは、組織の一員として役割を果たすことを意味します。一方、フォロワーシップは、組織の目的を実現するために、自分はどのように貢献できるかという視点で主体的に関わる姿勢を意味します。
例えば、自分の担当業務を正確にこなしていても、組織全体の課題には関心を持たず、「自分の仕事ではない」と考える人もいます。反対に、自分の役割を果たしながら、より良い成果につながる提案や周囲への支援を自ら行う人もいます。この違いが、フォロワーシップの考え方です。
つまり、メンバーシップとフォロワーシップは、どちらか一方を選ぶ考え方ではありません。組織の一員として役割を果たすこと(メンバーシップ)を土台に、組織の目的達成に向けて主体的・建設的に関わる姿勢がフォロワーシップです。
どちらが良い・悪いという話ではありません。ただ、一人ひとりの影響が大きい中小企業では、決められた役割を果たすだけでは対応しきれない場面も少なくありません。だからこそ今、組織に求められているのは、協力的に見える社員を増やすことではなく、組織の目的に向けて主体的に関われる社員が力を発揮できる環境をつくることなのです。
社員の主体性が育たない理由|個人ではなく組織を見る
◆主体性がない社員と決めつける前に
『うちには協力的ではない社員がいる。』
経営者や管理職から、そういうお話を伺うことがあります。
・会議で発言しない。
・改善提案をしない。
・新しい取り組みに消極的。
・指示されたことしか行わない。
確かに、その行動だけを見ると、「協力的ではない」と感じるかもしれません。しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいことがあります。
その社員は、本当に最初から主体的に行動しない人だったのでしょうか。入社した頃から何も提案しなかったのでしょうか。以前は意見を言っていたけれど、今は言わなくなったということはないでしょうか。
もし後者だとすれば、変わったのは社員だけではありません。社員と組織との関係の中で、何かが変わった可能性があります。
例えば、何度か改善案を出したものの、「前例がない」「今はそのタイミングではない」「現場のことは分からない」といった言葉で終わってしまった経験が続けば、「言っても変わらない」と感じるようになるのは不自然なことではありません。また、自分の役割が曖昧で、「どこまで踏み込んでよいのか分からない」状態では、主体的に動くことをためらう人もいます。
こうした行動を「主体性がない」「協力的ではない」と結論づけてしまうと、本当の原因を見落としてしまうかもしれません。
フォロワーシップの視点で見ると、大切なのは社員を「協力的か、非協力的か」という基準で見ることではありません。なぜ主体的な提案や行動が生まれにくくなっているのか、その背景を組織との関係も含めて考えることです。
◆主体性は環境によって変わる
主体的な提案や行動について考えるとき、「本人の意識を変えよう」という発想になりがちです。もちろん、主体的に行動することは社員一人ひとりに求められます。しかし、それだけでは説明できない現実があります。
例えば、同じ社員でも、部署が変わると積極的に発言するようになることがあります。上司が変わると、自ら改善提案を始める人もいます。逆に、以前は主体的だった人が、新しい部署ではほとんど発言しなくなることもあります。
もし主体性が本人だけで決まるのであれば、このような変化は起こりにくいはずです。
この点について、同志社大学の松山一紀氏らが行った実証研究(「フォロワーシップ行動と心理的安全性」、2022年)は、一つの重要な示唆を与えてくれます[1]。
この研究では、一般企業に勤める正規雇用の従業員500名を対象に、フォロワーシップ行動と職場の心理的安全性の組み合わせが、労働成果にどのような影響を与えるかを分析しています。結果として、フォロワーシップの種類によって心理的安全性との相互作用が異なることが示されました。
注目すべきは、「上司の指示に忠実に従う行動(受動的忠実型)」であっても、心理的安全性が高い環境と組み合わさることで、労働成果に正の影響をもたらすという点です。
研究者らは、この結果について、心理的安全性は「成果につながる行動を後押しする職場環境」として機能している可能性があると考察しています。つまり、安心して意見や提案を行える環境が、行動そのものにも影響を与える可能性があるということです。
この研究が示しているのは、主体的な提案や行動は本人の資質だけで決まるものではなく、職場環境との相互作用によって引き出される側面があるということです。
そうした環境があってはじめて、「このやり方は改善できると思います」「別の方法もあるのではないでしょうか」という言葉が、自然に出てきます。
フォロワーシップは、社員の内面だけに存在する能力ではありません。組織との関係の中で引き出され、発揮されるものなのです。
◆主体性を妨げる組織の構造
ここまで整理すると、経営者が向き合うべき問いも変わってきます。
なぜ社員は協力してくれないのかではなく、「この組織は、協力したくなる組織だろうか」という問いです。
例えば、こんな職場はないでしょうか。
・改善提案をしても、その後どうなったのか分からない
・会議では意見を求められるものの、結論は最初から決まっている
・問題を指摘した人ほど、面倒な役割を任される
・新しい仕事だけが増え、裁量は変わらない
こうした環境では、「会社のために考えよう」という気持ちがあっても、少しずつ行動は抑えられていきます。これは「協力したくない」のではありません。「協力しようとしても報われない」と学習してしまった状態なのかもしれません。
もちろん、すべてを組織の責任にすることはできません。主体的に行動することは、社員にも求められます。しかし、同じような行動が複数の社員に見られるのであれば、それは個人の問題ではなく、組織の構造を見直すサインかもしれません。
「非協力的な社員」という言葉を使った瞬間、私たちの視線は社員個人へ向かいます。しかし、本当に問い直すべきなのは、その社員が主体的に関われる組織になっているか、という点なのです。
フォロワーシップを育むには|経営者が見直すべき視点
◆教育より先に整えたい組織の環境
主体的に関われる組織をつくるには、何から取り組めばよいのでしょうか。
フォロワーシップを身につけてほしい。そう考えたとき、多くの企業では、まず研修や教育を思い浮かべます。もちろん、フォロワーシップという考え方を知ることには意味があります。
しかし、知識を身につけることと、実際に行動が変わることは別です。
例えば、研修で「主体的に意見を出しましょう」と学んだ社員が、翌日の会議で発言したとします。その意見に対して「余計なことを言わなくていい」「前例どおりで進めよう」という反応が返ってきたら、その社員は次も発言しようと思うでしょうか。
反対に、特別な研修を受けていなくても、「その視点は大事だね」「なぜそう考えたのか聞かせてほしい」そんな対話が日常的に行われている職場では、社員は自然と考え、提案し、組織へ関わるようになります。
フォロワーシップは、教えることで身につくというより、発揮できる環境の中で育つものです。だからこそ経営者が考えるべきなのは、「どう教育するか」だけではありません。
では、どのようなフォロワーシップが発揮される環境を目指せばよいのでしょうか。
◆ケリー理論から見るフォロワーシップ
そのヒントになるのが、ロバート・ケリーのフォロワーシップ理論です。
WEB労政時報(2022年)でこの理論を紹介した九州大学・青島未佳氏は、ケリー自身の言葉として、組織の成功に対するリーダーの平均的な貢献は約20%、残りの約80%はフォロワーが握っているという考え方を紹介しています。数値の妥当性については議論の余地があるものの、フォロワーの役割の大きさを示す一つの視点として紹介されています[2]。
ケリーが重視したのは、「積極的な関与」と「批判的思考」の両方が備わっている状態です。
ここでいう積極的な関与とは、自分の役割だけでなく、組織の目的を意識して主体的に行動することです。一方、批判的思考とは、上司に反発することではありません。組織の目的を実現するために、「もっと良い方法はないか」「このままで良いのか」と考え、建設的な意見を伝える姿勢を指します。
この視点で考えると、「協力的な社員がほしい」という言葉の意味も変わってきます。
もし「協力的」が「従順で指示によく従う」という意味になっているとすれば、それは積極的な関与は求めても、批判的思考は期待していない状態かもしれません。しかし、本来のフォロワーシップは、その両方があって初めて発揮されるものです。
◆経営者が見るべきフォロワーシップとは
では、そのようなフォロワーシップが発揮されているかどうかを、経営者は何を見て判断すればよいのでしょうか。
私たちはつい「協力しているかどうか」を見てしまいます。指示に従っているか。文句を言わないか。周囲とうまくやっているか。もちろん、それらも組織運営には大切です。しかし、それだけでは組織の成長を支えることはできません。
本当に見たいのは、「組織の目的に向けた主体的な関わりが、組織の中で生まれているだろうか」という視点です。
・問題に気づいたとき、声を上げられているか。
・改善できることを見つけたとき、提案できているか。
・担当業務だけでなく、組織全体の成果を考えながら行動しているか。
こうした行動こそが、フォロワーシップの表れです。
リーダーとフォロワーは対立する存在ではありません。リーダーは方向性を示し、意思決定を行う。フォロワーは、その目的を実現するために主体的に考え、必要な提案や異論を伝える。役割は違っても、目指すゴールは同じです。
「協力している社員を増やすこと」を目標にするのではなく、社員が組織の目的に主体的・建設的に関われる状態をつくること。それが、フォロワーシップという考え方の核心です。
まとめ|経営者が変えるべき視点
「もっと協力的な社員が増えてほしい。」
その願い自体を否定する必要はありません。ただ、その言葉を使った瞬間、私たちの視線は社員個人へ向かいがちです。「主体性が足りない」「協力する意識が低い」と考える前に、一度立ち止まってみてください。
フォロワーシップとは、社員を従わせるための考え方ではありません。組織の目的を共有し、その実現に向けて、一人ひとりが主体的かつ建設的に関わるための考え方です。
だからこそ、経営者が最初に目を向けるべきなのは、社員ではなく環境なのです。
「協力的な社員をどうやって増やすか」という発想から、
「社員が主体的に関われる組織をどうつくるか」という視点へ。
この視点の転換が、持続的に成長する組織づくりの第一歩になるのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
参考資料
[1]松山一紀・森勇貴「フォロワーシップ行動と心理的安全性」同志社大学、2022年
https://doshisha.repo.nii.ac.jp/record/28944/files/031001410003.pdf
【PDFダウンロードURL】
[2]WEB労政時報「第4回 心理的安全性を高めるフォロワーシップ」青島未佳、2022年7月
https://www.rosei.jp/readers/article/83259
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