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パワハラ対策をしているのに、なぜ問題が起こるのか?|中小企業が見直したい2つの視点

パワハラ対策として、社員研修を実施したり相談窓口を設置したりしている会社は少なくありません。それでもパワハラの問題が起こることはあり、「これ以上何をすればよいのか」と悩む経営者もいるのではないでしょうか。 

ただ、対策をしているのに問題が起こるのであれば、取り組みの内容や進め方そのものに見直すべき点があるのかもしれません。施策を増やすだけでなく、これまでの取り組みを別の角度から見直してみることも大切です。 

本記事では、パワハラの実態と、私が当事者から直接聞いた言葉を手がかりに、対策を見直すための2つの視点を考えていきます。

パワハラは、知識を身につけるだけでは防ぎきれない


厚生労働省の『令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査』(以下、「同調査」)によると、過去3年間に勤務先などでパワーハラスメントを受けたことがあると回答した労働者は19.3%でした。令和2年度の前回調査からは減少したものの、被害を経験した労働者がなお一定数いることが分かります[1]。

現在、パワハラ防止措置は中小企業にも義務づけられています。会社としての方針を明確にして社員に周知すること、相談体制を整備すること、問題が起きた際に適切に対応することなどが求められています[2]。

こうした取り組みのなかでも、社員研修は重要な役割を担います。どのような言動がパワハラに該当するのか、業務上必要な指導とパワハラは何が違うのか。管理職だけでなく社員全体が共通の理解を持つことには、大きな意義があります。

ただ、知識として理解していることと、実際の職場で適切に行動できることは、必ずしも同じではありません。

たとえば、冷静なときには人格を否定するような叱責をしてはいけないと分かっていても、仕事が思うように進まない場面では、感情的な言動が出てしまうことがあります。パワハラに該当しうる言動を見聞きしても、問題として声に出せないこともあるでしょう。

もちろん、研修が無意味だということではありません。大事なのは、研修で得た知識を実際の職場でどう生かせるかです。

では、実際の職場では、どのような事情がパワハラへの対応を難しくしているのでしょうか。

当事者の言葉から見えてきた2つの課題


私はこれまで人事の仕事で、パワハラが疑われる問題について当事者から話を聞く機会が多くありました。そのなかで印象に残っている言葉が2つあります。

1つは、パワハラを受けているのではないかと心配された社員の言葉です。
大事にはしたくないんです。告げ口して職場に居づらくなるのは嫌だし、みんなも我慢していると思うと、自分だけが何か言うのは違う気がするんです。

本人は、職場での言動に何も感じていなかったわけではありません。ただ、それを会社に訴えることには抵抗がありました。問題を大きくすれば、自分の立場や周囲との関係が悪くなるのではないかと心配していたのです。また「みんな我慢している」という言葉からは、そうした言動を職場ではある程度仕方のないものとして受け止めてしまっている空気も感じられました。


相談窓口を設けていても、こうした気持ちを抱える社員が多ければ、自分から相談する人は少なくなります。

問題が起きていないのではなく、表に出てきていないだけかもしれない。そう感じさせられた出来事でした。

もう1つは、パワハラが疑われる言動について話を聞いた管理職の言葉です。
上は次から次へと無理難題を言い、下は言うことを聞かない。そんな状況で厳しいことを言うなと言われても困る。自分で一度やってみろ、と言いたくもなる。

もちろん、仕事が大変だからといって不適切な言動が許されるわけではありません。管理職には自分の言動に責任を持つことが求められます。ただ、この言葉を聞いたとき、本人の言動だけを注意して終わりにしてよいのだろうかという思いも残りました。


経営層からは高い成果を求められ、現場では思うように仕事が進まない。そうした状況に置かれた管理職が、部下をどう指導し、職場をどう運営していけばよいのか。そこには、本人の意識や能力だけでは解決しきれない問題もあるように思います。

この2つの経験から、パワハラの問題には性質の異なる課題があることに気づかされました。

一方には、問題を感じていても声を上げられない社員がいる。もう一方には、厳しい職場環境のなかで適切なマネジメントができずにいる管理職がいる。両方の事情に目を向けることで、会社としての対策を見直す視点が広がっていきます。

パワハラ対策を見直すための2つの視点


1.相談のハードルを下げる
パワハラの相談窓口を設置していても、相談がほとんど寄せられない会社があります。それを「問題が起きていないから」と受け止めてしまうのは、慎重になったほうがよいかもしれません。

同調査では、過去3年間にパワハラを経験した労働者のうち36.9%が「何もしなかった」と回答しています[1]。相談しない背景に「相談しても解決しないのではないか」「職場で不利益を受けるのではないか」といった不安があることも、調査からうかがえます。

大切なのは、相談窓口があると知らせるだけで終わらせず、社員が実際に相談できる状態になっているかを考えることです。

たとえば、相談窓口の担当者が経営者や直属の上司である場合、その上司に関する相談はしづらくなります。社内に複数の相談先を設けるのが難しいなら、外部の相談窓口を活用する方法もあります。

重要なのは、社員が自分の状況に応じて相談先を選べることです。相談した内容が誰にどこまで伝わるのかという不安にも、配慮が必要です。

相談者や関係者のプライバシーを守ること、相談したことを理由に不利益な取り扱いをしないことは、会社に求められる基本的な対応です[2]。そのうえで、相談を受けたあとにどのような手順で事実確認を進めるのか、相談者の意向をどう確認しながら進めるのかといった点も、あらかじめ考えておくことが大切です。

ただし、相談者が「大事にはしたくない」と望んでも、法令違反や安全配慮義務に関わる重大な問題が疑われる場合には、組織として対応せざるを得ないことがあります。その場合でも、なぜ対応が必要なのかを丁寧に説明し、相談者の安全やプライバシーに最大限配慮しながら進めることが求められます。

さらに考えたいのは、本人からの相談を待つだけでなく、日常のなかで気づきを拾える関わり方ができているかという点です。

たとえば、普段と様子が違う社員がいないか。特定の社員に対する厳しい叱責が日常化していないか。周囲がそうしたことに気づいたとき、安全に共有できる雰囲気やルートがあるか。こうした日常の関わりや職場の雰囲気づくりも、問題を早期に把握するうえで重要です。

相談窓口を設けること自体がゴールではありません。社員が困ったときに安心して声をあげられ、その声が適切な対応や支援につながる。その状態をつくることが目的です。

2.パワハラを誘発する職場環境を改善する

もう一つの視点は、パワハラが起こりやすい職場環境そのものに目を向けることです。

管理職に対して、感情的な叱責をしないことや、相手の人格を尊重した指導を行うことを求めるのは非常に重要です。ただ、それを本人に求めるだけでなく、そうした行動を実践できる職場環境が整っているかどうかにも目を向ける必要があります。

同調査では、パワハラを経験した労働者と経験しなかった労働者とで、勤務先の特徴に違いが見られたと報告されています[1]。

具体的には、「上司と部下のコミュニケーションが少ない、またはない」「残業が多い」「休暇が取りづらい」「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」「人手が常に不足している」といった特徴です。

これらの特徴がパワハラの直接的な原因だと断定することはできません。ただ、パワハラ対策では個人の言動だけでなく職場環境にも目を向ける必要があることを、示唆していると考えられます。

管理職が過大な目標を与えられている一方で、人員配置や業務の進め方について十分な裁量がない。部下の指導や育成を任されていても、自分が上司に相談できず、一人で抱え込んでいる。こうした状況が重なれば、現場で無理が生じやすくなります。

そのような状態で「部下には丁寧に指導してください」と伝えるだけでは、実際の行動を変えることは難しい場合もあるでしょう。

つまり、会社として考えたいのは次の点です。
◆管理職に業務や責任が過度に集中していないか
◆求める成果に対して必要な権限や支援が与えられているか
◆部下の指導や職場運営に悩んだときに、相談できる相手や場があるか
◆問題が起きた際に、背景にある業務の進め方や体制にも目を向けているか 

もちろん、職場環境を整えることと、個々の不適切な言動に対応することは別の問題です。パワハラが疑われる事案が起きた場合には、事実関係を確認し、必要な措置を講じなければなりません[2]。

その対応に加えて、なぜそのような状況が生まれたのかを職場全体の仕組みや環境の面からも見直すこと。それが、同じ問題を繰り返さないための取り組みにつながります。

社員を守ることは、会社を守ることにもつながる


パワハラ対策を進めるうえで、研修や相談窓口の整備は欠かせません。ただ、それらを実施しているというだけで、十分な対策ができているとは限りません。

社員が安心して相談できる状態になっているか。管理職を含めて、適切に仕事を進められる環境が整っているか。こうした観点から、現在の取り組みを見直してみる意味はあります。

パワハラによって傷つくのは、直接その言動を受けた社員だけではありません。不適切な言動をとった管理職自身が信頼を失うこともあれば、周囲の社員が萎縮して意見を言えなくなることもあります。

社員が安心して働けず、本来の力を発揮できない状態は、会社にとっても望ましいものではありません。

社員を守ることは、仕事の厳しさをなくすことでも、必要な指導を控えることでもありません。必要な指導や成果への要求は維持しながら、一人ひとりが力を発揮できる職場をつくること。その意味で、パワハラから社員を守ることは、結果として会社を守ることにもつながります。

自社のパワハラ対策は、実際に社員と会社を守れる形になっているだろうか…

研修の実施回数や相談窓口の有無だけでなく、その仕組みが職場でどのように機能しているかを、今一度振り返ってみてください。




参考資料
[1]厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40277.html

[2]厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/


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